両立支援制度が業績へ及ぼす影響

長期的な視点が見る必要があります

企業の多くは家庭と仕事の両立支援制度と利益を生み出す制度を区別していません。むしろ従業員の構成の一環として両立支援制度を持つ企業が多く、残念ながら、法律遵守のためだったり、世間の風潮や他者が行っているからという後ろ向きの理由で導入しているケースも少なくありません。

確かに、両立支援制度には企業に利益をもたらさない側面があるのも事実です。例えば、育児休業制度をある従業員が利用する場合を考えてみましょう。まず休業した従業員の穴を埋めるため、代替要員を新たに採用するか、既存の従業員に休業者の仕事を兼務させる必要があります。

新たな人員を採用する場合にはコストが発生しますし、研修を行う必要もあります。また、初めのうちは生産性も休業者と比べると落ちるでしょう。

一方、既存の従業員に兼務させる場合には、仕事量の増加により残業も増え、新たな仕事に慣れるまでは生産性が低くなるでしょう。このように「短期的」な視点で見ると、企業に利益をもたらすような要因が両立支援制度に見当たらないと考えることができます。

では、「長期的」な視点から見るとどうでしょうか。育児休業取得者はいずれ職場に復帰することになります。復帰して、以前の知識や技術・技能を生かして仕事を遂行できるので、新たな研修は不要です。代替要員に比べると企業や同僚に対するロイヤリティは高いと考えられますし、企業内におけるノウハウや人的ネットワークも豊富のはずです。そのうえ、就業が継続できたことで、モチベーションも一層高まっているでしょう。

さらに近年では、晩婚化と晩産化が進んでおり、育児休業を含む両立支援策の利用対象者の高齢化、勤続の長期化が進んでいます。このことは、もし両立支援策が充実していなければ、知識や技術・技能、ノウハウを多く蓄積した従業員が出産を理由に就業を断念せざるを得ないケースが以前よりも増えることを意味しています。したがって、以前よりも企業が両立支援策を講じないことで失う機会費用は高まっているのです。

また、両立支援制度や女性の活用の程度は、企業の採用にも影響します。女性の就業希望は、特に新卒学生においては、以前よりも高くなっており、彼女達の就職希望先の選択基準として、企業の両立支援や女性活用の程度が重要視されています。

では、はたして両立支援制度は企業の利益を高めているのでしょうか。これまでの研究では、仕事と家庭生活の両立のしやすい職場の実現が、単に従業員の満足度の向上だけにとどまらず、他の人事制度と組み合わせることによって、優秀な人材確保と定着率の向上、ストレスの減少、働く意欲の高まり、能力発揮の促進などによる生産性の向上、そして顧客満足度の向上などを通じて企業業績の向上をもたらすことが示されています。